根部は植物が健全な状態を保つのにもっとも重要な部分です。
しかし、その「根の充実」を図るには周辺に存在する土壌などの環境要因が大きなウエイトを占めます。
ちょっと想像してみてください。
地上部で強い直射日光が長時間降り注ぐ環境だったり、逆にほとんど日光が差さなかったり、常に強風が吹き荒れていたり、酸素が少なかったりするような環境下ではまともに生育できなくなりますよね?
地下部も同様で、まずは周辺環境である土壌の状態が極めて重要な要因になるのです。
土壌がどのような状態なのかで根の状態が決定するといっても過言ではありません。植物側の問題はその次にくると考えてもよいでしょう。
土壌の状態は良好のようだが、思うように根が張ってくれない…。
そういう場合には、水の与えすぎなど管理上の問題である場合があります。
地上部は目で見えるので異常を発見しやすいのですが、地下部は土壌に埋まっているので観察することができません。さらに、地上部には周辺に充分な空気が存在しているので、ほとんど酸素不足は意識されませんが、土壌に埋もれている地下部の空気の存在も意識されることが少ないといえます。
しかし、根も呼吸をしており、充分な酸素が必要です。水のやりすぎは、根が酸欠の状態になってしまうため根痛みの原因になるのです。
ベランダなどで鉢栽培をしていて、よく植物を駄目にしてしまう方が多いですが、お話を伺ってみると、灌水した水の受け皿が深く、常に水が張っている状態になっているため、根腐れを起こしてしまっていることが多いです。植物の大事な根部は目に見えないので、ある意味、地上部よりもデリケートな管理が要求されます。根も呼吸していることを忘れずに、適切な管理を心がけましょう。
意外に思われるかもしれませんが、根はどこからでも水を吸収できるわけではありません。主な吸収部位は根の先のほうで、特に根毛から吸収します。根毛は根の表皮細胞が変形してできており、一本一本がひとつの細胞です。これにより、細胞膜の表面積が大きくなり水との接触面積が増大し、より吸水しやすくなるのです。ですので、根毛の少ない根は水分の吸収効率が悪いといえます。表皮細胞や根毛は、数日から数週間で吸水という役目を終えて脱落し、表皮細胞の下に控えていた皮層細胞が露出します。露出した皮層細胞は、リグニン化して内部を保護する役割をします。ここまでくると吸水はほとんど出来なくなり、支持器官としての役割に変化していきます。
植物の養分は窒素 (N)、りん酸 (P2O5)、加里 (K2O) などの3大栄養素を含めた無機イオンですが、一般的に根の外にあるこれら無機イオンの濃度は、細胞内の濃度よりも遙かに低いといえます。つまり、根や葉状体などの細胞は、濃度の低い栄養分を濃度の高い細胞内に取り入れなければならず、そのため無機栄養素イオンを摂り込むための装置が必要になります。ほかにも、その装置を動かすためのエネルギーを変換する装置、装置の強さを調節する装置、無機イオンの流れ口の大きさを調節する装置、無機イオンを選択的に吸収する装置など、それらすべての装置が細胞膜に存在しています。根が養水分を吸収するのに必要なエネルギーは、各細胞が呼吸することによって供給される ATP(アデノシン3リン酸)などに含まれる化学エネルギーですが、各細胞が呼吸するには有機化合物の供給が必要で、この有機化合物は地上部で行なわれる光合成によって作り出されます。
一般的に茎の先端部を「生長点」と呼んでいます。
ここでは細胞分裂が活発に行なわれていて、茎や葉などの細胞に変化していきます。これを細胞分化といいます。しかし、意識されることは少ないのですが、重要な生長点がもう一種類存在します。
それが根の先端部分です。
根の生長点でも活発に細胞分裂が行なわれていて、ここでは根冠、表皮、皮層、中心柱の4種類の組織をつくる細胞に分化してゆきます。
植物は根のどこからでも養水分を吸収できるわけではなく、地下部の生長点で分化した表皮細胞が主な吸収箇所になります。ですので、根の先端部が傷んでくると分化がうまくいかなくなってしまい、やがて養水分の吸収もうまくいかなくなってしまうのです。
地上部の生長点は、俗に “芯” などと呼ばれ、その状態が意識されることが多々ありますが、目に見えないブラインドエリアにある地下部の生長点も重要な部分です。しっかりと意識しながら栽培しましょう。