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植物は、いろいろなシグナルに反応して生きています。シグナルとは信号とか合図という意味で、外因性のものから内因性のものまでさまざまです。その植物のシグナル応答を、私たちは何気なく利用して栽培しています。
それら植物のシグナル応答を利用した栽培技術にスポットを当ててみます。
茎の頂点を取り除き(摘心)腋芽を伸長させる栽培技術。
これは、茎の頂点である生長点が腋芽の生長を抑制している “頂芽優勢” を利用した技術で、これには植物ホルモンのオーキシンとサイトカイニンが関与しています。どちらも生長ホルモンとして知られていますが、この場合のオーキシンは「腋芽の生長抑制のシグナル」、サイトカイニンは「腋芽の生長開始のシグナル」として働いています。オーキシンは頂芽で多くつくられるので、取り除くとオーキシンが腋芽に届かなくなり、サイトカイニンがシグナルとなって腋芽の生長を開始します。
植物は、茎や葉や根が伸びようとする先に障害物があると、それを避けるように伸びたり、押しのけて伸びたり、伸びるのを止めたりします。しかし触って「障害物がある」と感じた訳ではなく、シグナル物質を生成して認識しています。この接触刺激のような物理的なシグナルとなるのがエチレンです。
このエチレンシグナルを利用した栽培技術には、麦踏、水稲苗を竹ぼうきでなでる、甜菜(ビート大根)をブラシでなでる、挿し木の斜め挿し、観賞菊の頂部をなでる、メロンの蔓引きなどが挙げらます。
左の画像は、現代のビート育苗の様子。
昔はこの苗を定期的になでて栽培した。
植物は、温度や日長(光)などのシグナルによって花芽を形成します。
このシグナルを利用した栽培技術に 「イチゴの夜冷・株冷」*1 や 「菊の電照栽培」*2 があります。イチゴはクリスマス、菊は正月やお彼岸など、需要が多くなる時期に、確実に出荷するための技術として確立されています。
頂芽優勢、接触刺激、温度条件、短日条件…。
農業では生産性や収益性の向上、生育促進のために、これらのシグナルを栽培技術に取り入れ有効に活用しています。そして弊社も “植物のシグナル” に注目しています。
アグリボEXは、設計の主目的である病害抵抗性誘導はもちろん、発根促進、光合成促進、徒長抑制など植物の健全生長を助けるための製品です。これには、さまざまなシグナル応答が複雑に関与しています。ここでは、そのうちのひとつであるチレンシグナル伝達系にスポットを当ててみます。
アグリボEXが処理された植物では、エチレンシグナル伝達系が活性化することがわかっています。
エチレンは、ジャスモン酸とともに傷害抵抗性(病害抵抗性や虫害抵抗性を含む)に関与する重要なシグナル物質で、接触刺激栽培にも密接に関係しています。その作用は多様で、発芽促進、成長抑制、花芽形成と抑制、成熟促進、離層形成、不定根形成促進、アレロパシー(他感作用)などが挙げられます。そのため、アグリボEXを植物に処理すると、病虫害抵抗性が誘導され、徒長を抑制し、発根を促す効果が期待できます。
アグリボEXの設計段階で検討した “抵抗性反応誘導シグナルの安定的最大化” は、高い製品完成度となって結実し、作用メカニズムの詳細な研究も、共同研究先であった (独)農業生物資源研究所とともに「エチレンシグナル伝達系」という結論に達し、学会発表を行ないました。
この後、アグリボEXを数年にわたって積極的に研究していただいた (独)野菜茶業研究所からも高い評価を得たことで、私たちは製品に対する自信をよりいっそう深めることができました。
アグリボEXは、発売されてからあらゆる場面で使用されています。その活躍の場を簡単にご紹介します。
この他にも、さまざまな利用方法で活躍していますので “アグリボこよみ” を参考にしてください。
近年、(独)中央農業総合研究センターにより、ある病害に効果的であることが見出されました。
そして、(独)農業生物資源研究所によってこの病害の抵抗性には、「既知の代表的なシグナル伝達系では説明できない未知の作用メカニズムが働いている」ことが明らかになりました。
これにより、“アグリボEXのもつ抵抗性誘導作用の一部分を利用していたに過ぎない” ということが新たにわかったのです!
ここに記述した以外にも、アグリボEX には興味深い作用がたくさんあります。
それらについては追々…